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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)145号 判決 1975年3月12日

原告 三菱電機株式会社

被告 特許庁長官

主文

原告の請求は、棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四九年八月六日、同庁昭和四二年審判第四、五四八号事件についてした審決は、取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

(審決の成立にいたる特許庁における手続の経緯)

一  原告は、昭和三九年一二月二九日、「ルミスーパー」の片仮名文字をゴシツク体で横書してなる商標(以下、「本願商標」という。別紙参照)につき、商標法施行令別表第一一類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)。、電気材料」を指定商品として特許庁に商標登録出願をしたが、昭和四二年四月一七日、拒絶査定を受けたので、同年六月一九日、特許庁に対して審判を請求したところ、特許庁はこれを昭和四二年審判第四、五四八号事件として審理し、昭和四九年八月六日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下、「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年九月二四日、原告に送達された。

(本件審決理由の要点)

二 本件審決は、本願商標の構成、指定商品及び出願日について前項のとおり認めたうえ、次のように要約される理由を示した。

登録第六七、九五七号商標(以下、「引用商標」という。)は、「Lumideluxe」の欧文字を丸ゴシツク体で横書してなり、本願商標の指定商品と同一の商品を指定商品として、本願商標の登録出願の日前たる昭和三八年三月二八日登録出願がされ、昭和四〇年六月二八日その登録がされたものであるが、これと本願商標とを比べると、本願商標の構成は、「ルミスーパー」の文字を書してなるものであり、そのうち「スーパー」の文字は、「高級な」の意味を有する外来語として既に親しまれ、一般に各種商品についてその品質が高級なことを表す語として普通に使用されているところであつて、本願指定商品の品質を表示したものとして認識されるにすぎないから、自他商品の識別標識としての機能を果たすのは、「ルミ」の文字であり、この文字から本願商標について「ルミ」の称呼をも生ずるものとするのが相当である。これに対し、引用商標は、「Lumideluxe」の文字を書してなるものであり、そのうち「deluxe」の文字は、「豪華な」、「高級な」等の意味を有する英語として親しまれているばかりでなく、一級に「deluxe」、あるいは「デラツクス」の語は各種商品について商品の品質を誇称して表すために普通に使用されているため、引用商標がその指定商品に使用されるときは、これに接する需要者は、該商標中の「deluxe」の文字をもつて商品の品質を表示するにすぎない語として容易に理解し、認識するものというべきであるから、引用商標のうち自他商品の識別標識としての機能を果たすのは「Lumi」の文字であり、この文字から、単に「ルミ」の称呼をも生ずるものといわなければならない。

してみれば、本願商標は、引用商標と、「ルミ」の称呼を同じくする類似の商標であり、かつ、その指定商品を同じくするから、商標法第四条第一項第一一号に該当し、登録を受けることができない。

(本件審決の取消事由)

三 引用商標の構成、指定商品、出願日及び登録日は、いずれも本件審決認定のとおりであるが、本件審決が、本願商標を構成する文字のうち「ルミ」の文字及び引用商標を構成する文字のうち「Lumi」の文字をそれぞれ全体の構成から分離し、この文字から、「ルミ」の称呼を生じることを理由に、両商標が称呼を同じくする類似商標であると判断したのは、誤りである。すなわち、「スーパー」及び「デラツクス」という語がいずれも商品の高級なことを表す用語として一般に使用されていることは、本件審決認定のとおりであるが、本願商標は、「ルミスーパー」の各文字を、同一の書体、大きさ、色彩及び間隔で、一連かつ一体不可分に左横書してなるものであり、その文字の結合は極めて強いから、これを「ルミ」と「スーパー」とに分離して考察する要素は商標の構成上、何も存在しないし、また、「スーパー」の文字には「豪華な」、「高級な」等の意味があるにしても、「ルミ」の文字からは何ら特定の観念が生じるものではなく、「ルミスーパー」の文字全体はいわゆる新規な造語であるから、これを二つ以上の部分に分離して考察することはできない。一方、引用商標もまた、これを構成する「Lumi-deluxe」の文字から特定の観念を想起させることが皆無に等しい、いわゆる創造語として、その登録が認められたものである(甲第八号証の審決書参照)から、これを「Lumi」と「deluxe」とに分離して考察することはできないのである。なお、「ルミ」又は「Lumi」と、品質等識別力を持たない形容詞的文字とからなる結合商標、例えば、「ルミエース」、「ルミカラー」、「ルミルツクス」、「ルミグリーン」、「ルミホワイト」、「ルミクイツク15」、「LUMISAFE」、「LUMIBEST」が引用商標の非類似商標として登録又は公告された事実があるので、本願商標は、一体不可分の造語として容易に認容されて然るべきものである。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因について、次のとおり述べた。

原告の主張事実中、本件審決の成立にいたる特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点、本願商標及び引用商標の構成、指定商品、出願日、引用商標の登録日に関する原告主張の事実は認めるが、本件審決は正当な認定、判断に基づくものであつて、原告主張のような違法はない。「スーパー」の文字は「高級な」の意味を有する外来語として既に親しまれたものであり、また「deluxe」の文字は「豪華な」、「高級な」等の意味を有する外来語として既に親しまれている「デラツクス」の語源である英、仏語に該当し、語学知識の普及した現在では直ちにその語義を理解しうるものであるが、「スーパー」又は「deluxe」ないし「デラツクス」の文字は、いずれも商品の品質の優秀なことを表すため、本願商標又は引用商標の指定商品中の商品を含む各種商品について普通に使用されているから、両商標は、簡易、迅速をとおとぶ取引の実際においては、その構成が一体であるか否か、また、特定の意味のない造語であるか否かにかかわりなく、商品の典型的な品質表示語である「スーパー」、「deluxe」の各部分を省略し、それぞれの要部と認むべき「ルミ」、「Lumi」の文字から生じる「ルミ」の称呼によつて取引される場合も少なくないものと思われ、したがつて、両商標は、「ルミ」の称呼を生じる点において類似するとした本件審決の判断は正当である。なお、引用商標を登録すべきものとした甲第八号証の審決が、引用商標の「Lumi deluxe」の文字をもつて創造語であるとしているのは、引用商標が自他商品の識別力を有するか否かの判断に当たり、「Lumi」の文字は意味のない造語であるから、これに「豪華な」、「特等の」等の意味を有する「deluxe」の文字を附加しても、全体として自他商品の識別力が失われるものではないとの趣旨に解すべきであるが、引用商標を構成する文字から商品の品質を表すことが明らかな部分を除外して要部を抽出し、これによつて本願商標との類否判断をするのは当然であつて、この点について同様な判断をした本件審決には、引用商標に関する前記審決と何ら矛盾するところはない。また、原告の挙示する既登録例は、事案を異にする本願商標の登録許否について判断の基準とはなりえない。

第四証拠関係

原告訴訟代理人は、立証として、甲第一ないし第九号証を提出し、乙号各証の成立を認める、と述べ、被告指定代理人は、乙第一号証の一ないし三、第二ないし第四号証、第五号証の一ないし三、第六ないし第八号証を提出し、甲号各証の成立を認める、と述べた。

理由

一  本件審決の成立にいたる特許庁における手続の経緯、本件審決理由の要点並びに本願商標及び引用商標の構成、指定商品、出願日、引用商標の登録日に関する原告主張の前掲事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件審決に原告主張の取消事由があるか否かについて審究する。いずれも成立に争いのない乙第一号証の一ないし三、第二ないし第四号証、第五号証の一ないし三、第六ないし第八号証によれば、本願商標を構成する文字中の「スーパー」の文字は「高級な」の意味を有する外来語として親しまれ、一般に各種商品についてその品質が高級なことを表す語として普通に使用されていること、また、引用商標を構成する文字中の「deluxe」の文字は「豪華な」、「高級な」等の意味を有する外国語として親しまれ、一般に「deluxe」の文字そのまま又はその訳語たる「デラツクス」の文字で各種商品について商品の品質を誇称して表すため普通に使用されていること(「スーパー」及び「デラツクス」が商品の品質が高級なことを表す語として一般に使用されている事実は原告も認めるところである。)、これから推すときは本願商標及び引用商標が、その指定商品に使用される場合、本願商標中の「スーパー」及び引用商標中の「deluxe」の各部分は、その指定商品の品質を表示したものとして容易に認識され、したがつて、簡易迅速をとおとぶ取引の実際においては、右各部分を省略し、その余の「ルミ」及び「Lumi」の各部分が、それぞれ、自他商品の識別標識としての機能を果たし、これによつて取引が行われることが少なからず生じることが認められるが、「ルミ」及び「Lumi」の各文字からいずれも「ルミ」なる称呼が生じることは明らかであるから、本願商標及び引用商標からは、いずれも「ルミ」の称呼をも生じ、したがつて、両商標は、「ルミ」の称呼を同じくする点において類似の商標というべきである。

そして、本願商標と引用商標とがその指定商品を同じくすることは、さきに確定した事実から明らかであるから、本願商品は、商標法第四条第一項第一一号に該当し、登録を受けることができないものであつて、本件審決の判断は正当であるといわざるをえない。

原告は、本願商標においては、これを構成する文字の結合が強く、また、「ルミ」の文字に特定の観念がなく、「ルミスーパー」の文字全体が造語であるから、本願商標を「ルミ」と「スーパー」とに分離して考察することはできず、一方引用商標も「Lumi deluxe」の文字から特定の観念を想起させない創造語であるから、「Lumi」と「deluxe」とに分難して考察することはできない旨を主張し、成立に争いのない甲第一号証によれば、本願商標は、これを構成する各文字の書体、大きさ、色彩及び間隔が、原告主張のように、同一であることが認められるが、右各文字が取引の実際において一体不可分のものとしてのみ用いられるというような特段の事情があれぱともかく、さもない限り、その一部を分離して類否の判断に供することが許されないほど、各文字の結合が強いものと認めることはできず、また本願商標及び引用商標が仮りに全体として無意味な造語であるとしても、右のような特段の事情がない限り、両者とも、それぞれ、これを一体不可分のものとしてのみ把握しなければならないものと認めることはできない。なお、引用商標に関する原告主張の前掲審決が引用商標をもつて創造語であるとしたのは、成立に争いのない甲第八号証によれば、被告主張の前掲趣旨に解されるから、これによつても引用商標の構成文字を分離して考察することが許されないものではない。次に、原告は、既に登録され、又は公告された結合商標の事例を挙げて、本願商標はこれらと同様に引用商標とは非類似の、一体不可分の造語からなる商標として認容さるぺきである旨を主張するが、商標の登録適格性の有無及び類否の判断は、各商標につき個別に判断すべき性質のものであるから、原告主張のような事例があるというだけで本願商標の引用商標との類否を判断することはできない。

三  そうだとすれば、本件審決には原告主張の違法はなく、その取消を求める本訴請求は理由がない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎 中川哲男 秋吉稔弘)

別紙

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